シューベルト晩年の最高傑作と言われる三大歌曲をツィクルスで聴くことのできる非常に希な公演ですが、今回この作品を取り上げられたきっかけを教えてください。
新堀 駒田さんとはこれまで「プレミアムクラシック」で2公演、コロナ禍では動画収録、昨年はCD 制作と「音楽劇ファウスト」で共演してきました。シューベルトのこの大きな作品にいよいよ取り組んでもよい時なのではないかと思い提案しました。
駒田 年月を経て自分がようやく歌える時期に来ているのではないかと思います。歌手としての技術はもちろん必要ですが、詩の内容をお客様に伝える力が最も必要な作品です。クラシック音楽の中でも最も重要な作品であるこれらを取り上げる事は、クラシック音楽を取り上げる劇場では避けては通れないものではないでしょうか。
お二人にとってのシューベルトはどのような作曲家ですか?
新堀 特に歌曲をたくさん書いた人でその数は600 曲にものぼります。交響曲や室内楽曲にも素晴らしいものがありますが、「歌曲王」と言われるだけあって「歌の作曲家」というイメージが強いですね。
駒田 「歌」の作曲家だと思います。器楽曲もたくさんありますがシューベルトの作品の根底には「歌」があります。シンプルで美しいメロディ、わかりやすいリズム、しかし時折みせる大胆なハーモニーの変化、これらを詩と融合した作曲家。
三大歌曲とドイツ歌曲(リート)の魅力について教えてください。
駒田 3つの作品それぞれにキャラクターが全く違いますが最高傑作である事は間違いありません。言葉と音楽がシンプルさを保ちながらも融合されており、一つの到達点にあると言えるでしょう。「美しき水車小屋の娘」は一人の青年の自然への憧れ、旅、恋、失恋、死を表現する歌物語で、「冬の旅」は孤独や疎外感を、冬の景色と共に、心象風景のように表現しています。「白鳥の歌」は晩年の作品をまとめたもので物語性はないのですが、喜びも悲しみも、シューベルトの音楽を通してシンプルかつ深く伝わる曲集です。
新堀 シューベルトが人生の最期に音楽で表現したものは何だったのか、垣間見えるのではないかと思います。そして人間の声とピアノだけで作り出すドイツ歌曲の魅力を体感してほしいですね。
駒田 それぞれの国ごとに「歌曲」のキャラクターが違っていて面白いのですが、ドイツ歌曲は言葉と音楽を両立させる事に対するこだわりが一番強いと思います。音楽(例えばメロディ)のために言葉を犠牲にする事はありません。ちなみにこの考えが進みすぎると難解な物になってしまうのですがシューベルトはバランスが良いです。またピアノがとても重要であり、いわゆる「歌の伴奏」ではないのも特徴です。歌とピアノが対等な立場だとよく言われますが、個人的にはピアノが八割、歌が二割くらいの比重なのではないかと思うほどです。
最後に新堀さんにお聞きします。
駒田さんの歌の魅力について教えてください。
新堀 率直なアプローチで人の心に踏み込む演奏の説得力と、作品に対する深い洞察力ですね!クラシックの楽しさ、面白さ、奥深さに触れ、音楽の感動を皆さまと共有できる素敵なひとときとなりますように。